心療内科 レジデントマニュアル

関西の有志の心療内科医によるブログです。心身医学・心療内科についての正しい理解を広めていきたいと思います。

治療の枠について書いてみたいと思います。医療者として、患者さんやご家族が求めて来られた場合にはできるだけお話しを聞いてあげたい気持ちになります。もちろん、時間のある時には話をじっくりと聞いてあげることは大切だと思います。一方で時間や場の枠を大事にすることもあります。それにはいくつか理由があります。

 

①   患者さんの不安や怒りが強くならないようにするため

時間外でも対応したり、長い時間話を聞くことで、患者さんの症状や不安が強化されることがあります。話を聞いてもらわないとどんどん不安が強くなったり、対応してくれなかった医療者への怒りが出てきたりすることもあります。患者さんのためによかれと思った対応が逆に患者さん自身を苦しめることになります。

 

②   患者さんが自分で乗り越えるチャンスを提供するため

医療者に対応してもらうという対処方法によって、患者さん自身が症状を自己コントロールする機会が奪われてしまうかもしれません。医療者の関わりのないところで、患者さん自身でなくとも、家族、友達、趣味など、患者さんが持っているリソースが役立つこともあります。

 

③   患者さんが自分の中にある「観察する自我」を見出すため

枠を設定されることで患者さんは葛藤を頂くことになり、自分のことを観察する自我が出てきます。医療者は患者さんの中にある「観察する自我」と治療同盟を結ぶわけですので、治療が進みやすくなります。

 

④   医療者自身が患者さんに陰性感情を抱かないようにするため

限られた勤務時間の中で、多くの時間を要求された場合に医療者は患者さんに陰性感情を抱きやすいものです。そのような陰性感情は患者さんとの良好なコミュニケーションを阻害します。

 

⑤   医療者自身の健康維持のため

多くの患者さんに時間や場の枠にこだわらずに対応し続けると、燃え尽きてしまう医療者もいます。医療者自身の健康があってこそ、患者さんにゆとりのある対応ができると思います。

 

⑥   担当をしている他の患者さんにも同程度の医療を提供するため

一人の患者さんに多くの時間を割くということは他の患者さんに対応する時間が減ってしまう可能性もあります。

 

⑦   他の医療者の対応と合わせるため

開業しているならいいのかもしれませんが、他の医療者と一緒に働くのであれば、彼らの枠から大きくずれない方がよいと思います。「○○先生はいつでも電話対応してくれた」「私の先生は○○先生みたいに長く話を聞いてくれない」という陰性感情が同僚の医療者にむいてしまうこともありえます。

 

というような理由で心療内科ではある程度「枠」を大事にします。例を挙げると、夜に患者さんのところに行かない、面接の曜日を決める、患者さんに提供できる時間をしっかり共有し、その時間はその患者さんのために用意していることを伝える、などです。

ただ、「枠」にがちがちにしばられては、いい関係が築けない時もありますので、時にはフレキシブルに枠を崩すこともあります。結局のところ、「枠」は目の前の患者さんがどのような方なのか、医療者自身がどのラインまでなら自分がいい医療を提供できるのかによって変わってきます。なので、自分のことをよく知る必要もありますね。

 

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