病態仮説
心身症の治療では病態仮説を作ることが治療上、非常に重要な意味を持つことがあります。今回の説明ではあくまで一般医の先生が実践をして頂けるという範囲の内容で書かせて頂きます。
まず病態仮説には二つあります。一つ目は医療者が見立てた病態仮説。二つ目は患者さんやご家族に呈示する病態仮説です。もちろんこの二つが一致することもありますし、異なることもあります。
また、患者さんやご家族に呈示する病態仮説を作る上で以下のような点を押さえています。
① 医学的に完全には否定できない内容であること
他の医療者から見てあまりに突飛な内容だと誤解を生むことになります。
② 患者さんやご家族が納得できる内容であること
③ 患者さんやご家族の行動変容につながる内容であること
例えば、会社での残業が増えた頃から腰痛が持続し、腰痛のために動けなくなってしまった慢性疼痛の患者さんがいたとします。
[医療者の見立てた病態仮説]
仕事のストレスが、慢性的な筋緊張をきたし、腰痛を持続させていそう。
この病態仮説は患者さん、ご家族に説明可能な内容だと思います。ただ、患者さんが「仕事でストレスを感じることは全くない」と強く信じていたとしたらどうでしょう?こういった場合にはいくつかのアプローチが考えられます。
① 病態仮説が正しいと感じてもらえるくらいの信頼関係を築く
② 患者さんが自ら気づいてもらえるような関わりを続ける
面接の中で症状と、周囲の状況、感情、行動との関連を意識して質問を丁寧に行います。
例:「どんな時に痛みが強くなりますか?」「その時はどんな気持ちでしたか?」など
③ 患者さんの理解に沿った病態仮説を提示する
今回の例であれば、一旦、仕事のストレスのことは置いておきます。例えば、「筋肉のこりができてしまって、そこに疼痛物質がたまって、痛みが持続している。このこりをほぐすために積極的に運動をしていけば、血流が疼痛物質を洗い流してくれます。」のように患者さんが受け入れやすい器質的な部分に焦点が当たっており、なおかつ行動変容につながる病態仮説に修正します。
最後に誤解のないようにですが、病態仮説はあくまで仮説ですので、それが真実かどうかはわかりません。治療者がその仮説に固執しないことが重要です。また、医療者が病態仮説を作るような記載になりましたが、患者さんからしっかり話を聞いて、患者さんのストーリーに医学的知識の補強を行うことが基本になるように思います。
さらに、病態仮説にはこだわらず、「どうすればよくなるのか」に焦点を当てて関わっていくというアプローチ方法もあります。これはまた別の機会にお話しできればと思います。
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